2009年03月27日

君が見たひとつの人生

これは私の友人の話。

友人の彼は癌と闘病していた。

まだ若い。

それ故に進行も早かった。

彼女の看護は毎日に及んだ。

彼は笑った。

いつも笑顔を見せてくれた。

体はほとんど動かなくなっていた。

それでも、彼女の話に笑い、彼女の看護にお礼を言っていた。

彼女は別れたいなんて一言も言わなかった。

彼もそんな彼女を本当に愛していたんだと思う。

宣告の余命から数か月が過ぎ去っていた。

彼は死んだりしない。

彼女にはそんな気がしだしていた。

ある日いつもわがままを言わない彼が初めてわがままを言った。

一緒に外に散歩したいと言うのだ。

彼女は戸惑った。

彼は外に出てはいけないと言われていた。

彼女は彼の担当のお医者様に必死にお願いをした。

お医者様は病院の庭ならいいと言った。

彼女は彼を車いすに乗せ、散歩をした。

晴れた春の空だったという。

彼は久しぶりに太陽を直に浴びていた。

もうその頃にはほとんど話す事が出来なかったという。

いつも耳元でささやく程度。

彼はそれでも満面の笑みで太陽を浴びていたのだと。

彼女は30分くらい車いすを押しながら彼と散歩をした。

初めて出合った時から陽気な楽しい人だった。

バレンタインの彼からの告白。

チョコを渡したら「ありがとう」じゃなくて、「好きです」って言われたのだ。

思わず笑ってしまったという。

彼女から言うつもりだったのに、先を越されたのだと。

それから4年の月日が流れていた。

色々な事があった。

いま思い出せば楽しい思い出ばかり。

そんな彼がある日癌の宣告を受ける。

2人の間に出来る溝。

彼はそれでも笑顔で彼女に告白したのだという。

彼女は泣いた。

それでも、彼は少しも泣いたりはしなかったのだという。

発見が遅く、転移も始まっており余命は1年無いと言われていた。

それでも彼はすでに1年以上生き続けていた。

空を見上げながら彼が何かを言おうとしている。

彼女は彼の口元に耳を近付けた。

「ありがとう。もう大丈夫。」

そう聞こえた。

散歩を切り上げるという事だろうと彼女は感じた。

「じゃあ、戻るね。」

そういう彼女に彼の口がまた動き出す。

また近づける。

「君と出会えて幸せだったよ。ありがとう。」

突然の言葉に少し驚く。

彼はまた空を見つめる。

彼女は彼を見つめた。

彼は何かを思い出している様に笑顔を見せる。

彼が目を瞑る。

また口が動きだす。

「先に進むんだよ。・・・。」

いつも“ちゃん付け”で呼ぶ彼がはじめて名前だけで彼女を呼んだ。

彼の意味する事が分からなくて彼女は彼を呼んだ。

しかし、彼はそれから返事をすることはなかった。

二度と目覚める事も・・・。

穏やかな寝顔に見えた。

彼は彼女に伝えたかったんだと思う。

自分は十分幸せをもらったから、次の恋愛に進んでほしいって。

君も幸せになるんだぞって。

彼女の前で最後の時も一度ですら泣き顔を見せなかった彼。

彼は彼女を一生守る事が出来ないと分かっていた。

だから、自分に出来る唯一の方法で彼女を励ました。

笑顔。

とてつもない力をもっていると思う。

彼女はそれから7年後の春に結婚を決める。

幸せに向かい進むことになる。

彼の望んだ通りに。


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posted by くろいぬ at 05:09| 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 白猫の勝手気ままな発言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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